世界がつながる バーチャルフォトウォーク(Virtual PhotoWalks)Vol.2

前回はバーチャルフォトウォークの魅力とその可能性についてお伝えしました。
その魅力あふれるバーチャルフォトウォーク誕生秘話と日本での活動開始までの軌跡をお楽しみください。

誰にだって世界を楽しむ権利がある

バーチャルフォトウォークの活動を始めたのはカナダ人カメラマンJohn Butterill(ジョン バテリル)氏。
彼の身近には幼少のころから常に大自然があり、カヌーを漕ぎながら美しい景色を写真に収めるのが当たり前のことでした。
そんな日常のなかで、カメラにスマホを取り付けてみんなに見せられたらどうか、と思い立ったそう。
実際その試みは多くの人に感動を与え、深刻な病気で笑顔を失った方に、再び笑顔と希望を取り戻しました(2013年Google社ビデオから一部引用しています)。

「写真が好きだけれど難病で動けない。私の世界はこの窓から見える四角い風景がすべて」という方、壮絶な痛みを伴い歩くのもままならない、ましてや旅行なんて及びもつかない、という方、そんな方々一人一人にJohn氏は「明日散歩に連れて行ってあげるよ」と声をかけ、スマホと三脚を手に外に出かけました。
Zoom越しに会話をしながら、お一人お一人の世界を広げるお手伝いをしてきたJohn氏。
その活動は広くメディアにもとりあげられ、2013年にGoogle社のプロモーションビデオからオファーがきたり、ニュースに取り上げられたりと、認知が拡がってきました。
そして2019年にはzoom社のイノベーションアワードにて映像作品「彩音ちゃんの世界旅行」で最優秀賞を受賞。
それは、日本の重病の小さな少女と、遠く離れたカナダにいるJohn氏の交流が主軸となった作品です。
彩音ちゃんは言葉を発することもできませんし、お互いに母国語も異なりますが、瞬きで会話し、心を通わせていきます。
それも一度きりではなく、バーチャルフォトウォークのプログラムで会うたびに毎回です。
これは誰がやれと強要したわけでもなく、どんなに参加者が増えてもお一人お一人との交流を忘れない「思いやり」の心があるからこそ、そして何よりもJohn氏と彩音ちゃんの心が通じ合っているからこそ紡ぎだされたものにほかなりません。
この二人のやり取りをみたら、John氏が日本にいて、オフラインでも彩音ちゃんと仲良くしていると錯覚してしまいそうになるほどです。

NPO法人バーチャルフォトウォーク設立までの軌跡

このJohn氏の活動を日本にも広め、NPO法人として運営しているのが代表理事の永堀典子さんです。
前述の「彩音ちゃんの世界旅行」も永堀さんの渾身の一作。
永堀さんとバーチャルフォトウォークの出会いは2016年に遡ります。
きっかけは監査翻訳を中心にフリーランスで翻訳業務をしていた永堀さんのところにGoogle社の日本語品質責任者してトライアルの話が舞い込んだことでした。
その最終テストでJohn氏のビデオを見て、こんな活動があるのか!と衝撃を受けたそうです。
永堀さんはすぐさま氏にコンタクトしました。
「忘れもしない、それは4月28日のことでした」と永堀さん。
その後2か月ほどなんの音沙汰もなく日々は過ぎていき、2か月後の6月28日に事態は動き出します。
日本時間での早朝6時、突然John氏から返事がきたのです。
「今からZoomで話しましょう」と提案するJohn氏に永堀さんは困惑。
だってその時、永堀さんはパジャマ姿に寝ぐせの寝起きのスタイルだったのですから。
しかし、このチャンスを逃してはならない、と即断した永堀さんはその場でzoomをインストールしました(そうです、2016年時点でzoomはメジャーではありませんでした)。
また、最初は自身の状況を話し、カメラオフで臨もうとしたそうですが、「いや、これはお見合いじゃない。自分のありのままで話をするべきだ」と招待リンクをそのままクリック。
その瞬間、画面いっぱいに広がった美しい背景とJohn氏の笑顔、その画質のクオリティの高さに驚き、またJohn氏のいるカナダと日本との距離がぐっと縮まったそうです。
その後、任意団体として活動をしながら、永堀さんご自身もプレゼンターとして研修を重ね、ハーバード大の教授やノーベル平和賞受賞者の方などと繋がる体験をすることで、より一層の可能性を感じ、John氏とともにNPO法人バーチャルフォトウォークの設立に乗り出したのでした。

とはいえ、NPO法人の設立と運営には煩雑で膨大な事務手続きが欠かせません。
John氏も本職はカメラマンで手続きに関してはお手上げ状態。
そんな中、永堀さんの監査翻訳としての経験がいかんなく発揮されました。
また、日本に限らず世界中の方と繋がるために欠かせないのがzoomですが、実はCEOのEricYuan氏とJohn氏は、zoom社創設時からの友人だったという驚きの事実が!
Eric氏もこの活動のもつ意義に賛同し、様々な協力をしてくださっているのだとか。
人と人とをつなぐことのできる魅力、コミュニケーション力、フットワークの軽さ、John氏のカメラマンとしてのセンスに、永堀さんの事務処理能力、zoomが誇る高機能、どれもバーチャルフォトウォークの運営に欠かせない大事なエッセンスとなっています。

バーチャルフォトウォークの様子

こうして、2021年5月13日に晴れてNPO法人としての産声を上げたバーチャルフォトウォークは、休むことなく活動の幅を広げ続けています。

語りたいことはまだまだあるけれど…まずは体験してみてほしい!

今回の取材と視聴体験を通し、いくつもの感動がありました。
バーチャルフォトウォークという活動について特筆すべきことは本当にたくさんありますが、最大の特徴はなんといっても文字通り「誰一人取り残さない」取り組みであるということでしょう。
一番多いときで700万人ものフォロワーがいたという現在進行形の大きなプロジェクトである一方で、「焦って人数だけ増やせばいいというものではない」とJohn氏も永堀さんも断言します。
「たくさんの視聴者を集めることそのものは目的ではなく、たった一人の寝たきりの人が喜んでくれることこそが大成功」とのこと。
時には一人のALS方の願いをかなえるために、プレゼンターがスペインのサグラダファミリアまで赴き、またある時は深刻な病気で余命を宣告された方と一緒に散歩し、アジア屋台の熱気を共有する。

YouTuberに憧れる青少年が多い昨今、相手にわかりやすいように伝える練習にも一役買い、この子たちが大きくなった時に広い視野を持った世界市民になってくれることを願う。
バーチャルフォトウォークはこれからも、世界とつながって思いやりの輪をひろげつづけてくれることでしょう。

ランチの様子1 ランチの様子2
▲ 取材後、お昼もご一緒させていただきました!