「働き方改革」ってなんだろう
  ~特別養護老人ホームしゃくなげ荘の挑戦~

雄大な十勝平野に位置する、北海道鹿追町。酪農と畑作が盛んな町です。
朝のテレビ小説 『なつぞら』でも話題となった「神田日勝」の記念美術館もあり、近年注目されている町。
この町で高齢者福祉を支えて36年の特別養護老人ホーム「しゃくなげ荘」様にお邪魔してまいりました!

山本進(やまもと すすむ)氏
社会福祉法人鹿追恵愛会 常務理事・同法人特別養護老人ホームしゃくなげ荘施設長。
北海道老人福祉施設協議会副会長。
大学卒業後民間会社を経て、郷里の鹿追町にあるしゃくなげ荘へ。
高齢者の発達と権利擁護の専門家で、発達障害問題にも深い専門性を持つ。
アロマオイルを使ったマッサージによる要介護・要支援高齢者のQOL向上を目指すなど、ユニークな研究も進めている。

山本施設長

利用者本位のサービス実現のために。
「働きやすさ」からのアプローチ

「『働きやすさ』というのはなんだと思いますか? 」
山本進施設長からの問いかけでスタートしたこの日の取材。
「働き方改革」という言葉を耳にしない日はない昨今ではありますが、では何をすれば働きやすくなるのか、と自ら考える機会は意外と多くないことに改めて気づきました。
その点、山本施設長の理念は明確です。
「『働きやすさ』とは、機嫌よく仕事ができること、これに尽きると考えています。幸せに働ければ、気持ちに余裕ができる。余裕ができれば利用者さんのことを考えるようになる。私が業務改善を考えるときに、変わらずに思ってきたことです。」
施設を運営していくとき、従来型のヒエラルキーでルールを徹底し、がんじがらめにしてしまう方が簡単ではあるでしょう。
あるいは、高額な給与を支払いさえすれば人はついてくる、という考え方もあるかもしれません。
しかし、それでは自分で「感じて」仕事をすることができない。
上の目を気にした仕事を強いられていては、利用者に目を向けた仕事をできるようにはなりませんし、どうしたらよくなるか、を自分で考える余裕がなくなります、と山本施設長。
「この施設で、誰のために、何のために働いているのか。 
それを考える余裕を持てる働き方ができるようなガバナンスが必要だと思っています。」

では、「機嫌よく仕事ができる」ようにするためには具体的にはどうしたらよいのでしょうか。
例えば、認知症ケアの概念の一つとして、
「パーソンセンタードケア」 ※1) というものがありますが、組織を考える際も一緒だと山本施設長はおっしゃいます。
「本人、つまり職員一人一人を中心に考えてみると、何をしなくてはいけないのかが見えてきます。職員が『楽しい』と思って取り組めるにはどうしたらよいのか、それを考えるのが管理する我々の役割だと思っています。
もちろん、一番に考えるのは利用者のことです。ではその利用者の満足のためには何を考えなければいけないかというと、直接支援をしている職員のことですよね。」

施設長

管理職

職員

利用者

利用者

職員

管理職

一般的な施設の組織構造 しゃくなげ荘における組織構造

ただし、「楽しい」と思えるためには苦労も必要だとも。悩んだり苦労したりした先に、「やり遂げた! 」という達成感があって初めて「楽しい」といえる。そこを味わえる働き方を考えることも大切だということも併せて教わりました。
「大体5年くらい仕事をしていると、時間の管理の裁量が拡がるようになります。そうなった職員には、まだその段階にいない人の働き方をどうするかを考えてほしい。あれはダメ、これはダメ、とだけ言っていても絶対に良くはならない。これも認知症ケアと通ずるものがありますね。」
介護理論とガバナンス理論が一貫しているから現場の職員にもわかりやすくて腑に落ちる。
納得です!

※1) パーソンセンタードケアとは。
文字通り、「その人を中心としたケア」のことです。
認知症のご高齢者を一人の人として尊重し、「その人の視点や立場に立って理解しながらケアを行う」という考えで、認知症ケアにおいては広く浸透しています。


体位交換の回数、おむつ交換の回数を減らす

夜間業務は日中より人数が少ないのが常です。でも利用者の数は一緒。寝ている間の体位交換、おむつ交換、ナースコールへの対応…業務改善前は夜通し職員が走り回っていたそうです。
これでは職員が疲れ切ってしまう、と危機感を抱いた山本施設長が目を付けたのが、高機能おむつやエアマットの導入でした。

「職員の負担を減らす」、「利用者の不快感をなくす」、
一見両立できなそうな命題ですが、15年の歳月をかけて改善に取り組み、現在では24時間で4回、24時間で2回までのおむつ交換の回数減を実現しました。
もちろん最初は「手抜きではないか」という反発がなかったわけではありません。
しかし、まずは排せつのメカニズムについての知識を共有し、アセスメントを重ねていくことから実践。
各利用者のリズムが見えてきた結果、おむつの乱用が減り、職員の負担減、さらにはコスト減にもつながりました。利用者への積極的な声掛けも増えたといいますから一石二鳥どころの話ではありません。
これは、体位交換についても同様で、エアマットの導入、その機能の学習会、時には実際に体験することで、利用者と職員双方にとって使いやすい方法を模索していきました。
「昔は『手をかけることがいいこと』と思われがちでしたが、私はこんなに便利なものがあるのに、それを使わないでいることが最高の方法だとは思わないです。」この思いが実を結び、現在では職員自身が手ごたえを感じるように。実践的な学習会が継続的に行われていそうです。


山本施設長の業務改善はさらに介護のICT化、看取りケアに拡がっていきました。
振り返るとそのテンポは決して速くはなかった、と笑いながらおっしゃる山本施設長。
次号ではその決意と苦労、実を結んだ看取りケア導入までをたっぷりとお伝えします。乞うご期待!