ポコラートVol.10受賞者展レポート

千代田区とアーツ千代田3331共同主催の事業「ポコラート全国公募」は今回で10回目の開催となりました。3年ぶりの実施となった本公募では全国から602点もの応募がありました。

この度、その中から受賞された作品の展示と共に、作家さんご本人や支援されている方のお話が聞けるアーティストトークが開催されるということで、会場に足を運んできました!

北海道からも佐久間智之さんが受賞

受賞作品8作品のうち「オーディエンス賞」を受賞されたのは函館で活躍する佐久間智之さん。このまめぷろマガジンでもご紹介したことのある作家さんです。

【佐久間智之さんプロフィール】
1996年生まれ。北海道渡島管内に在住。2014年特別支援学校高等部卒業。2015年から現在まで衣料品販売店で障がい者スタッフとして勤務している。幼い頃から車に強いこだわりがあり、趣味はトミカの収集。保育園の頃から絵を描くことが好きで、車を中心に様々なモチーフを描いていた。色鉛筆画が多かったが、高等部の美術の時間に初めてアクリル画を制作した。その作品が、2013年に国立大学附属学校PTA 連合会が主催した絵画コンクールで日比野克彦賞を受賞。その後は、世界自閉症啓発デー・アート展in Hakodate、北海道障害者のアート展、ポコラート全国公募展(VOL.5とVOL.7に入選、2022年VOL.10でオーディエンス賞受賞)、東北障がい者芸術全国公募展(2022年優秀賞受賞)等に出展している。

授賞式のあとのアーティストトーク、トップバッターという大役にふさわしく、進行役との掛け合いを軽妙にかわす佐久間さん。

受賞作「25台の車シリーズ (赤・青・黄・緑)」は構想から3年もの歳月をかけた大作です。

佐久間さん

▲ 「人生最高の賞です」とはにかむ笑顔が印象的です。

佐久間さんとご両親

▲ 佐久間さんとご両親。

自宅にあったアンディー・ウォーホルの画集に影響を受け、小さいころから好きで集めてきたトミカを主たるモチーフとして描き始めたとのこと。図鑑やカタログなども研究しながら、車種や年式などが被らないようにと縦横の配置にも細かい計算が施された作品です。
また、背景色も車体の色が映えるよう、トレーシングペーパーを上にかぶせて少しずつ色を混ぜながらバランスを決めていった佐久間さんオリジナルだそうです。
お父様曰く「本人の中では計算されているようですが、そのペーパーをみても我々には配合がわかりません。しかし智之が色を混ぜると毎回ぴったりの色になるのです。」とのこと。
さらに、この緻密な絵がすべて平筆で描かれているというから驚きです。細い筆などもご両親が用意されたそうですが「慣れている方が描きやすいから」と平筆の様々な面を駆使し描きあげました。
ご本人とご両親にお話を伺えば伺うほど驚かされるこの作品、繊細な中にも温かみがあって観ているだけで元気が出る、まさに佐久間さんのお人柄そのものが作品に表れているといえるでしょう。

来場された方が「次の作品が見たくなったよ」と佐久間さんに声をかけるシーンもあり、ポコラートをきっかけとしてますますファンが増えるワクワクもありました。

そんな佐久間さんと絵の出会いは保育園時代に遡ります。もともと絵を描くのが好きで鉛筆や色鉛筆で様々な絵を描いてきました。高校の時、先生が用意してくれた絵の具の中にアクリルがあり、その発色の良さに惹かれて、徐々に新しい画材での作品も増えていったそうです。

普段はアパレルメーカーでお仕事をなさりながら創作活動を続ける佐久間さんですが、休日となれば自然に手が絵筆やスケッチブックへと伸びているそうです。自宅のリビングで描くほか、大きな作品は公共施設の部屋を借りて描くこともあるそう。また、時にはお父様がドライブに連れ出してスケッチに付き合ったり、特急に乗って風景を眺めながらインスピレーションを磨いたり、と、生活の一つ一つが佐久間さんの感性と深くかかわりあっていることがわかります。 仕事でなかなか創作活動の時間が取れないことが目下の悩みだそうですが、だからと言って作品の完成までに妥協することは決してなく、一筆一筆丁寧に描きこんでいくスタイルはこれからも変わることはなさそうです。 さらに、佐久間さんの絵は職場でも評価されていて、ポップ描きも頼まれるのだとか。 お話を聞くにつけ、佐久間さんの作品にはどれも温度を感じますが、その秘密はご両親の深い愛情と佐久間家の仲の良さにあることがわかりました。

ダイヤモンドプリンセス号の絵画

▲ このダイヤモンドプリンセス号もお父様と寄港地まで赴いて描きました。それまで同じサイズのキャンバスに描いていましたが、キャンバスを2枚をつなげて迫力をのある作品に仕上げました。大きな絵を描くきっかけにもなった作品です。

「出会える場」、それがポコラート

ところで、「ポコラート」とはどんな活動なのでしょうか。
HPからその定義を引用しますと次のようになっています。

「ポコラート(POCORART)」とはPlace of “ Core + Relation ART ”「障がいの有無に関わらず人々が出会い、相互に影響し合う場」であり、その「場」を作っていく行為を示す名称です。

その中心的な活動である「ポコラート全国公募」は3年ぶりの開催となりました。

定義の通り、本公募では障がいの有無も年齢も経験も問いません。まめぷろマガジンはこの度初めてお邪魔しましたが、確かに“人と人”、“人と作品”が出会える場であることを肌で感じました。
まず何より作品の距離が近く、アーティストトークなどに行くと、作家さんご本人や、そのご家族、支援者と出会えること。
そして、作品を作ったご本人だけでなく、支援する側にも「気づき」や「表現の可能性」を示唆してくれるということ。
表現の自由さ、つながり、励まし…
アーティストトークという短い時間の中ですらこのようなたくさんの思いを感じることができました。

表彰状を持っている集合写真

こういった活動の場は、全国広しといえどそうそうあるものではないと思います。

アーティストトークの様子

▲ 作家さんご本人だけでなく時には支援員の方が紡ぐ作業風景や葛藤のお話も大変興味深いものでした。

また、授賞式の際、アーツ千代田3331の統括ディレクターである中村政人氏が話されていたことばも印象的でした。
「感覚的に、または知覚していること自体に自分がワクワクしてしまうことは実はたくさんあります。その楽しく知覚していること自体を誰かに伝えようとしたり、何かを伝えるために描こうとしたりする行為に『アート』という概念が入ってきているだけで、実はアートって言葉で言わなくてもいいんじゃないかな、って思ったりもします。」
アートは日常から遠いところにあるものではない、ということ。それを教えてくれるのもこのポコラートの素敵なお役目かもしれません。

活動拠点であるアーツ千代田3331は改修工事等のため2023年3月31日で閉館となるそうですが、様々な表現活動に触れ、日常こそ創造の連続だという気づきを得た私たちは、きっとこれからも日々の生活の中で自分なりの「気持ちよさ」を見つけていけることでしょう。