書評「数学的思考トレーニング」
~問題解決力が飛躍的にアップする48問~

高校の頃、数学で赤点をとったこともある私ではあるが、決して数学が嫌いというわけではない。ちょっと暗算が苦手で、数字を見ると睡魔が誘いに来る体質であるというだけのことだ。

その私が今回ご紹介したいのが「数学的思考トレーニング~問題解決力が飛躍的にアップする48問~」である。

筆者はビジネス数学教育家の深沢真太郎氏。数学的思考ができるビジネスパーソンを育成する「ビジネス数学」を提唱している。
「ビジネス」というとスーツにネクタイとイコールな感じもするが、この数学的思考、身に着けるとあらゆるシーンでとても役に立つ。
また、「数学」という単語を見るだけで発作が起きるような方でもご安心いただきたい。
なぜなら、別の書で筆者が、「数学とは、言葉の使い方を学ぶことができる学問である」と言っている通り、「数学的思考」というのは数式や公式を覚えて使おうというものではないからである。

まずは「定義」をする

筆者は、最初の段階でしっかり定義を決めることの重要性を述べている。
定義づけがないままで話が進むと「共通認識の欠如」が起こる。共通認識がないままでの議論はゴールにたどり着かない。
例えば、会議。最初にこの会議で何を議論するのか「定義」されず、途中ぐだぐだになり時間だけが過ぎてしまった経験はないだろうか。会議に参加するメンバーが解決する課題を共有できていれば、そこにフォーカスした議論ができるというわけである。
逆に、劇的な変化を求めるときは、「根本から考え直す=定義を変える」ことが有効とのこと。ぜひ実践したい。

分解と比較

定義づけができたらば、次に行うのは「分析」。 問題解決を目的とし、考える対象についてはっきりさせる作業である。

分析をするためにはまず「分解」
課題に対して漠然と向き合うのではなく、細かく分解するトレーニングをしようと作者は述べている。

なお、「難しい問題は小さく分けて考えなさい」とデカルトも言っているので、この方法は歴史的に賢者がやってきた手法なのだろう。

分解する時のポイントとしては、その対象を深く知るためにできるだけ細かく分けること、そして、漏れなく・ダブりなく考えること。
この作業は、何かをするときにも、何かに失敗して反省するときにも大いに使える。
例えば、プレゼンテーション。プレゼンをする機会に、まず「プレゼンを失敗しないためにすべきこと」を分解して考えてみると、
・シナリオ作成
・資料作成
・発表
という大枠に分解され、さらにその項目を細分化して考えると、どんな作業が必要かが見えてくる(詳しくは作中の解説に譲ることとする)。
逆に、プレゼンが失敗した場合はこの分解作業によって失敗の原因を特定することができる。シナリオが良くなかったのか、資料にエラーがあったのか…客観的に細かく分解できると、次に生かしやすくなる。

「分解」したら「比較」
次は比較、つまり、差をはっきりさせる作業に移ろう。数を見ると眠くなる人でも、数値目標があればわかりやすいし、実は我々は生きる上で様々な「比較」をしながら生活している。その比較は時に直感的で実態と一致しているとは限らない。そこで、いかに論理的な比較ができるようにするかが肝となる。

その手法として作者が挙げていることを抜粋すると
・複数回の比較をすること
・比較と分解を繰り返すこと…ここが「分析」の中でも一番重要。
・その比較が妥当か、「妥当性」を疑う習慣
・そのデータの定義を確認する習慣

これらの行為によって差をはっきりさせることができれば、世の中にあふれる曖昧なものも、「定義」して「分析」することで自分なりの納得いく解がみつかるのではないだろうか。

構造化とモデル化による体系的整理

数学の、というか思考の最終目標は、「説明できる状態にすること」。説明できる=言語化する作業を、作者は「体系化」と呼び、そのアプローチとして「構造化」と「モデル化」の2種類を挙げている。
簡単に言うと
構造化⇒こういう構造になっていますよ
モデル化⇒こういう関係になっていますよ
ということ。

構造化
構造化とは、物事を構造で説明すること、具体的なものを抽象化すること。建物でいうと「つくり」を説明するようなもの。
説明する対象の要素を「塊」でとらえ、塊の位置関係を明らかにする、それぞれの特徴を整理する、という思考をトレーニングしてみよう。

なお、構造化することで似ているものがみつけやすくなるというメリットもある。一見違うものでも構造化することで「似ている」とわかれば、そこからアイディアが膨らむことが期待できよう。

まとめとして作者は、構造化は理屈で理解するものではなく「感覚として掴むことが大事」と言っている。「感覚」が数学的思考なのか?と思うかもしれないが、言いたいことは、方法として完璧にできるセオリーがあるわけではなく、この思考が自分に定着するかしないかはトレーニング次第、ということだ。

なので、構造化を身につけるには普段から、たとえ話を考えるクセをつけることがオススメだそう。

「AとはBのようなものである」というたとえ話を考えることが、構造化するプロセスにつながるので試してみてほしい。

モデル化
モデル化とは、ある現象について諸要素とそれら相互の関係を定式化して表したもの(モデル)が「こういう風になっていますよ」と説明できる状態にすること。
数学で言う関数のような形で、「要するに大体こんな傾向です」とばらばらの事象を関連付ける行為だと理解すればよい。

なぜ「関連づけ」をするかといえば、それは「目的を達成するためには何をしたらよいか」という問いに答えを出すためである。

この思考パターンを身に着けると、凡庸な私でも「どのようにアクションしたらよいのか」がわかる、ような気がする。早速トレーニングをしてみたい。

まとめ

タイトルにもある通り、これは思考トレーニング方法の本である。したがって、感心しているだけでなく、実践してみることが一番大切なポイントとなる。日常生活のちょっとした物事から、まずは分解したり比較してみたり、たとえ話を考えるようにしてみたり、そういう思考のクセづけを心がけてみてはいかがだろうか。

なお、本書内では、様々なトレーニング課題が呈示されている。ぜひいくつかでもトライしてみることをお勧めする。


数学的思考 問題解決力が飛躍的にアップする48問
著者 深沢真太郎
発行 株式会社PHP研究所 刊