気持ちを伝えるのは言葉だけじゃない
~あーとスペースぐるぐるの活動がおしえてくれること~
前号でお伝えした「LIFE展7」の魅力ある空間と作品のご紹介をしましたが、全然お伝え足りない!ということで、今号では、その原点をもうちょっとだけご紹介します。
引き続き、支援係長の佐藤力(つとむ)さんにお話を伺っています。
この人にしか描き出せない世界を大切にする毎日
特別に作業場所を見せていただきました。
それぞれが好きなように作業に取り組めるよう、区切った空間を用意したり、広々したテーブルがあったりします。
画材も豊富にそろい、資料としてレコードジャケットや名画の画集などもたくさん用意されています。
日中活動の一環として、日に5名くらいずつでこのスペースにきて創作活動に取り組まれているそうですが、ここで創作アドバイザーをはじめとした職員さんが大切にしていることは「これをやりなさい」「これが正しいですよ」と押し付けないこと。
強制することによって方向性が変わってしまうことはその人の表現にはならない、という共通認識が浸透しています。
「その人に合っている画材は何かなって考えたり、筆圧の弱い人に対して濃い色の出やすいものを工夫して提供したりはしますけど、基本的には制作に関して口をだすことはしません。」
時に、ガラス越しに行きかう車の反射を楽しみ、天井からぶら下がっているオブジェを触ってその揺らめきを楽しみ、そうやってペンを握らないで過ごす日があっても、それはそれでいい。
その人らしく、したいように。
それでいいと思いますよ、と佐藤さんは続けておっしゃいました。
これは決して放置しているということではありません。
穏やかに、見守る。ということ。「その人らしく」という姿勢の後ろにはたっぷりの愛情と信頼が詰まっています。
「同じものを見ていても、こんなにも見え方が違うということに気づかされますよね。例えばこの作品を描いたのは自閉症の方なんですけど、作品をみたら彼にはこういう風に見えているんだなと知ることができます。」
「理屈抜きにいいな、と思うのは、このにじみ具合とか…。ほわほわっとしてて、『なんか見ちゃう』っていう感じ。 」
と言いながら、スケッチブックを開いて見せてくださる佐藤さんの横顔から、利用者と作品をへの愛おしさが溢れだすのを感じます。
障がいの程度が重くて、しゃべることができない人もたくさんいらっしゃるそうですが、でも何も表現できないわけではない、と佐藤さんは言葉を続けます。
「もちろんみんなが描けるわけではないし、表現はいろいろだと思います。でもこの色はこの人にしか出せないし、表に出してうまく表せないことも、言葉じゃない手段で表現できてると思えます。」
どんな気持ちだったのかな、この時は気分が乗らなかったのかな、ということも描き出された作品からなんとなくわかるそう。
それは、一人一人と愛情をもって向き合っているからこそ。手は出さないけど心は離れない毎日の積み重ねがなせる業と言えるでしょう。
愛と親近感は作品展のキャプションボードからもわかります。
その人一人一人を見守って、心を通わせているからこそ描ける作品紹介や作者紹介。
読んでいるだけで、まるで自分自身も作者と心が通っているような気がしてきます。
たとえば、この「シャイなボーイひろしくん」こと西野浩史さんのボードをご覧ください。
(写真に影が映りこんでしまったのはご愛敬…)
筆圧が弱い彼にぴったりの画材を探していたところ、こんなのが家にあったよ、と職員が偶然に持ってきてくれたカラー筆ペンがマッチ。スケッチブックのページがみるみるうちに埋まっていったそうです。
「シャイボーイだから、『これ、かっこいいね!うまくいったじゃん』って褒めたら下向いてしまうんです。下向いてニコッとはしてるんですけどね。」
その時の様子をそのままキャプションボードにおとしこんだおかげで、見る者にも作者の人となりが伝わります。
小川さんと前田さん
「この二人は去年の冬に亡くなったんですよ」と佐藤さんが示してくださったのは2枚の絵。
「亡くなったので、扱いとしては12月で『退所』になってしまったのですけど、施設で長く生活しててこの『ぐるぐる』にもいて、その仲間が亡くなったから『はい退所』っていうのも違うかなって。ここで生きてきた証っていうのをみてもらいたくて。それで『うたとマグカップ』という二人展の形で追悼展をしたら、お客さんが結構来てくださいました。」
「うたとマグカップ」展(あーとスペースぐるぐるFacebookより引用させていただきました)
利用者の高齢化や病気は避けて通れません。しかし、障がいがあってもなくても、一生懸命生きていたことに変わりはなく、その証を心にのこしておきたい。
職員も利用者も、気持ちが一つになって実現した二人展に、音楽活動のステージが彩りを添え、盛況のうちに展覧会は終了。
当時のFacebookを拝見すると、お二人とのお別れを寂しいと思う気持ちがつづられていますが、もし魂というものがあるのなら、きっとお二人の魂はこの展覧会に関わった皆さんの心の中に残っていることでしょう。
これからもたくさんのあたたかい物語が生まれることを願って
今回、取材としてpopkeにお邪魔し、短い滞在時間ではありましたが、愛灯学園で生まれる数々のあたたかい出来事に触れることができました。
この感動が少しでも伝わればと願い、これからも愛灯学園でたくさんの物語が紡がれるようにと願って、編集後記に代えたいと思います。
愛灯学園のそのほかの活動につきましても、別の機会にご紹介できればと考えておりますので、ご期待ください。