可愛くてクセになる『日下義信』の世界をどうぞ

この作品展を紹介するのに、沢山の言葉は要らないことは重々承知しています。
ですが書かずにいられない。
会場いっぱいにあふれる優しい世界、それは日下義信さんの人となりそのものでした。
十勝の青空のようにきもちよくて、見ているだけで笑顔になれる。胸のあたりがあたたかくなる。それが「日下信義の世界」展です。

色とりどりな日下ワールドへようこそ

会場の丸テーブルの上にはたくさんのスケッチブック。「ご自由にご覧ください」という気前の良さに引き寄せられてページをめくると、色とりどりな世界があふれだします。

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真ん中に据えられている焼物も日下さんの作品です。まっすぐ、きっちりしているけれど硬質的ではない、不思議な印象の作品です。

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展示する予定ではなかったカレー皿も急遽持ってきてくださいました。
焼き物は売れてしまって手元に残っている作品が少ないということで、貴重なペアのお皿になります。
素朴な線で描かれた可愛いお皿です。ここに載せられたお料理も喜びそうな、そんなお皿です。

御年80歳 気が付けば描いてる人、それが日下義信さん

幸運にも今回の主役、日下義信さんご本人にお会いすることができました。
日下さんは、普段は愛灯学園のグループホームで4人の入居者と共同生活を送りながら、生活介護事業所に通われています。御年80歳とのことですが、背筋はしゃんと伸び、足取りは軽やか。聞くと、なかなかのスピードでのお散歩もなさるとか。
あらかじめ、支援係長の佐藤力さんが「今日、日下さんの取材がくるよ」とお伝えくださったそうで、「恥ずかしいからいいよ」と言いつつ会場まで来てくださった優しい方でした。
握手を求めたところ、「こんなカサッカサの手だぁ」と、はにかみながら気さくに応じてくださいました。この手が数々の作品をうみだすのだと思うと、感激もひとしおでした。

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今回、個展としてご自身の作品だけが展示されている展覧会は初めての経験とのことで、ゆっくりゆっくりと会場を歩きながら、いつもとちょっと違う装いのご自身の作品をご覧になる日下さんです。

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職員渾身の手作り年表も目を引きます。等身大のポスターも秀逸!
作品だけでなく、日下さんご自身が愛されていることが伝わりますよね。

日下さんの作品を初めて拝見した時に、全体のタッチはふわりと柔らかい一方、色ののせ方がとても緻密だなと感じたものでしたが、この年表を拝見して、沢山の人生経験が日下さんの創造の世界を豊かにし、丁寧な手仕事につながっていることがわかり、合点がいきました。
絵や窯業は愛灯学園にきてから始めたとのこと。
しかし、うみだされてきた作品の数も制作スピードも半端ないというのは、愛灯学園内でも有名な話です。
「気が付いたら描いてるし、あれっと思ったらもう描き終わっていますね。日下さんは描くペースがとても速いんです。ほんとにあっという間。」と創作アドバイザーの梅田マサノリさん。
「集中力もすごくてね。声をかけたら『あ、疲れてた』という返事が返ってくることもあります。」
描いてみたら難しかったとか、これは苦手だなあとか、そういうものはありましたか?と質問してみると、「そんなものはないよ」 とさらりと一言。
「見て描いたら、こうなるよ」とこともなげにおっしゃいますが、否、普通は見ても描けません。ましてやこんなに柔らかくカラフルで優しい世界を創り出すなんて、誰にでもできることではありません。飄々と紡ぎだす、これこそが日下ワールドです。

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なんでもキャンパスになる

会場の一角に、はがき大の厚手の紙に描かれた作品がたくさん重ねて置いてありました。大きさは微妙に異なり、絵葉書を作成したというわけではないようです。
ひとつひとつ見せていただこうと手にとってみてびっくり。
作品が描かれていたのはお菓子の箱の裏だったのです。

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「日下さんには画材を用意しなくても、どんどん自分で見つけてくれちゃいますね。」と佐藤さん。
カレンダーの裏、チラシの白いところ、メモ帳…
余白があればそこが日下さんのキャンパスになります。
紙が薄くて描きにくければ、丁寧に張り合わせて、描く。
キャンパスが小さければ小さく、大きければたくさん。
日下さんの描き出す世界は自由自在なのです。

これからものびのびと、自由自在に、日下さんの世界がひろがっていきますよう応援しています!

後日談…会期中に80歳のお誕生日を迎えられました!

会期中の9月17日に80歳のお誕生日を迎えられた日下さん、当日はアート展会場で花束をお受け取りになられたそうです。
あーとスペースぐるぐるのFaceBookにその時の様子が掲載されていますのでこちらもご覧ください。
「popkeに来ても自分のスケッチブックを見ると、描きたくなった様です。一心に描いていました。
また、傑作が生まれる瞬間でした。」
という書き込みからもまた、さらなる日下ワールドへの期待が高まります!