ヒーローは今日も進化し続ける~NPO法人テレサの丘Vol.2~
前回に引き続き、NPO法人テレサの丘の代表神代律子さんへのインタビューをお送りします。
重症心身障害児(者)を取り巻く環境と新型コロナウィルスを乗り越えた「ヒーロー」の現在、そしてこれからの展望を伺いました。
当事者も家族も明るくなる未来を描いて
悲しい現実ですが、重症心身障がいをお持ちの方とそのご家族への偏見はまだまだ存在しています。
地方都市などでは、子どもを預けて外に働きに出ることもままならないことも多いそうですし、外出すれば、こんな人工呼吸器つけてる子を外に通わせるの?ハイリスクですよね!などと言われるのが現実。
障がいがあったら行きたいところに行くのも我慢しなければいけないのか。
家にこもっていなければならないのか。
と、事業所を始めてからも、「理にかなわない」ことには度々直面するそうです。
スタッフ同士でも、リスクヘッジを優先する意見もあり、行きたいところにはドンドン行っていいと考える神代さんと議論が飛び交うことも。
しかしそれらの課題をひとつひとつ解決するための時間を惜しまず、最善策を講じていったからこそ、コロナに配慮しながらも事業所を開き続けてこられたといえるでしょう。
▲ 室内は楽しい雰囲気。神社もあります。 |
とは言っても、一人一人のニーズに応えていく仕事というのは並々ならぬ大変さが伴うのでは?と質問したところ、答えは否、でした。
「本当に楽しい仕事ですよ。正直、今までやってきた中でこんなに無我夢中で仕事をさせてもらえたと思えるのは初めてです。子どもたちや保護者が私たちにとっては先生で、日々のケアの中でどんどんマニュアルがアップデートされていくのを実感していますし、自分の人生の中で、こんなに心が豊かになれる仕事って他にないなと思っています。」
と笑う神代さんです。
そして、子どもたちのケアと同時に神代さんが大事にされているのが保護者支援。
直接の子どもたちのケアの現場はスタッフに任せ、神代さんご自身は保護者支援を軸に活動しています。
「子どもの生活環境を守るには保護者支援なくしてはできない」という信念があるからです。
そして、その信念を元に、職員教育でも繰り返し言ってきたことが「いい思い出をたくさん作ろう」ということだそうです。
「障がいの壁ってやっぱり大きいんですよね。でもそんなとき、楽しい思い出がないと乗り越えられないじゃないですか、親も。 今、私自身も3年生になる子の里親をしていて、普通の保護者さんだったら耐えられないだろうなと感じる状況が少なからずあります。私自身はこの仕事をしているからこそ、経験と知識をもって真っ向から意見を言えますが、愛情をもって育ててきた子どものことを、初対面の人に発達障害、知的障害っていきなり言われたら普通はショックを受けるだろうなって、当事者になってみて実感しました。でも、そこにいい思い出といい人材とバックボーンがあったら助かるとも、改めて確信しました。 つまり、何か苦しいことがあってもすぐに相談できる窓口が増えるということが保護者の方たち(特にお母さんたち)にとっても大事だということです。 じゃあ、その相談窓口になるためには、と考えると、信頼関係がないところには相談しないでしょうし、信頼関係が築けるということは我々と一緒に『いい思い出』『楽しい思い出』を作っていけているということになると思います。」
通わせてるけど信用してない、という事業所にはならない、と神代さん。
一人一人の契約の時のエピソードを覚えていてくれる点も、支援を受ける側からすると嬉しくもあり信頼できる大きなポイントと言えるでしょう。
それくらい、一人一人のお話を疎かにすることなく真摯に向き合っているというわけです。
信頼して相談してくれたら守ってあげることもできる。
だから、信頼してすぐに電話をくれる保護者の方々には本当に感謝しています、と言葉を続けられました。
「相談してくださらないと、どう支援していいのかわからないですからね。相談してくれさえすれば、いくらでも方法を考えられるし、どう連携をとるか、最善策を調べることもできます。こちらからすると頼りにされないほうが悲しいですね。」
また、相談していただくことが自分自身の経験値になるともお話くださいました。
そこでぶつかる壁を越えても越えなくても、いろんな人達と関わっていくことこそが経験値になっていくとも。
それは時に自分の時間を割いて向き合わなければならないものですが、向き合ってみたら必ず得られるものがあるとおっしゃいます。
先が見えないから頑張らないというのはもったいない。
先の見えないことを不安に思うんじゃなくわくわくできたらいい。
その先に成功ばかりを夢見るのではなく、失敗したときはどんなことになるのかなって考えることも楽しいし、それもまた経験値になりますよ。
これらの神代さんの言葉一つひとつは、福祉を超えて我々の胸に響くものばかりでした。
支援が一番、あとのことは「なんとかする」
こうして前職から含めて9年超、保護者支援に力を注いできた神代さんの下にはたくさんの相談が寄せられ、真摯に応えていったものの一つが、昨年新たに開所した重症心身障がい児デイでした。
「前職の法人が事業所を一つ閉鎖することになったときに、重症児の保護者の方からこれからどこに通ったらいいんだろう、と相談を受けたのがきっかけです。その子は肢体不自由で医療的ケアは必要ないのですが、やはりリスクが高いと他から断られてしまったそうで、じゃあ通うところがないなら作ってしまえばいい、と動き出したのが2月のことでした。とは言ってもすぐにはいろいろなことが整わないので、胆振支庁に掛け合って、重症児の子だけは一般デイの括りで通えるようにしてもらい、間があくことなくケアを続けるために、前の事業所が3月31日で閉鎖になるのをうけて4月1日にはオープンできるよう頼みこみました。」
場所についても、閉鎖する事業所をそのまま居ぬきで使わせてもらえることになり、怒涛のようにサービスがスタートしたそうです。
「お金は全然なかったのですが、自分で持ちだせばいいやと思っていました。」とあっけらかんという神代さん、これも支援第一を軸に据えての行動でした。
実際ふたをあけてみると、5月時点で法人のお金が20万しかなかったという衝撃の事実も。
事務担当のスタッフも「神代さんならなんとかするんだと思ってました」と、その窮状を伝えなかったというのですから、信頼度と肝の座り方が並ではありませんよね。
その翌日に国保連の入金があって事なきを得たそうですが、いやはや、豪胆さに頭が下がります。
「為せば成る」「なんとかする」という強い思いが様々な困難を動かしていったと言えるでしょう。
継続こそ、力
もともとは携帯もスマホも嫌いだったそうですが、前職でFaceBookでの更新作業を任され、嫌いとは言えず試行錯誤しているうちに、情報発信も足かけ9年になりました。
「今考えるとスパルタでしたけど、でもそれを感謝しています。わからない私に、全てを任せてくれ、楽じゃない道を(前職の)社長から与えていただいたことで、頑張れたのだと思います。」
コツコツと続けてきたおかげで、とある公益社団法人さんから助成金のお声がかかり、ピアノやプロジェクタ、遊具等をそろえることもかないました。
外に向けて情報発信を続けていることで、「苫小牧にも重症児で頑張ってらっしゃる事業所があるんですね」と声をかけていただけたことも。
まさに継続してきたことが原動力となり、輪が広がっています。
「スタッフにも『継続は力なり』と言ってはいますが、継続してこられたのは、信頼してくださった保護者の方々とスタッフのお陰ですよ。」
と自慢のスタッフさんを紹介してくださいました。
▲ スタッフの石谷さん、代表の神代さん、島谷さん |
▲ 取材に伺ったときはちょうど七夕前(※北海道の七夕は8/7)。 |
前述の石谷さん、四季折々のアイディアを凝らしながらディスプレイをしてくれる島谷さんをはじめ、スタッフ一人一人の感性や力が集まって、そこに集まる契約児童の方々、保護者の皆さん、すべての構成要素がギュッと集まって、「重症心身障がい児サポートはうす ヒーロー」は今日も明日も、これからも、元気な笑顔がはじける場所であり続けることでしょう。
▲ 石谷さんの願いごとがかないますように |
これからも進化し続けるヒーロー
設立当初から契約してくれているみんなの人気者「つばちゃん」が来年2月で18歳を迎えることを受け、今後は生活介護事業も始める予定だそうです。
まずは5人。重症心身障がい児デイ、児童発達デイ、生活介護の三本立てで事業が展開されていくとのことです。
▲ 島谷さん作の「つばちゃん」キーホルダー。 |
また、場所が確保できれば入浴もやりたい、と神代さん。
ゆったり湯船でゆるゆるする気持ちよさを味わってもらいたい、スタッフの「これがやりたい!」っていう気持ちも応援していきたい、とさらなる進化を期待させるヒーロー。
「つばちゃんをはじめ、契約児童もそのご家族も、私たちにたくさんの勇気と笑顔をくれる大切な存在です」と語る神代さんの周りには今日も明日も笑顔が集まってくることでしょう。
これからもご活躍を応援しています!